東京国際フォーラムに会場を移し、2年ぶりとなる有観客開催で幕を開けた2021年の「第72回NHK紅白歌合戦」。インターネット発の新星から国民的スターまでが交錯したこの年は、従来の様式美を大きく覆す演出やサプライズが相次ぎ、今なお音楽ファンの間で語り継がれる歴史的な回となりました。
ネット世代の歌い手であるまふまふの素顔歌唱や、岡山の実家から東京のステージへと瞬間移動したかのような藤井風の仕掛け、そして前年の無念を晴らしたSnow Manのリベンジ劇。本稿では、当時の全出演者一覧と曲順タイムテーブルを網羅しつつ、勝敗の行方や落選を巡る舞台裏、そして世帯視聴率34.3%という数字の深層までを克明に検証します。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 要点1:2021年は初出場10組を含む全43組が出演し、藤井風のサプライズ登壇やまふまふのマスク外し熱唱などネット発カルチャーが地上波の主役に躍り出た。
- 要点2:五木ひろしの勇退やAKB48の連続落選が象徴するように、NHKの選考基準がサブスクやSNSの実績を重視する「本格的な世代交代」へ舵を切った。
- 要点3:司会の呼称統一や紅組圧勝の結果とともに、地上波視聴率の苦戦とネット配信(NHKプラス)の急成長がテレビの変革期を浮き彫りにした。
【出演者一覧と曲順タイムテーブル】第72回紅白の全歌唱曲と当日の流れ
NHKホールの耐震改修工事に伴い、実に49年ぶりに東京国際フォーラム・ホールAで開催された2021年の紅白歌合戦。テーマには「Colorful〜カラフル〜」が掲げられ、多様性を意識したアーティスト選定が大きな特徴でした。前半・後半に分かれた全プログラムの曲順とタイムテーブルは以下の通りです。
【前半戦:19時30分〜】
1. 【紅】LiSA「明け星」
2. 【白】郷ひろみ「2億4千万の瞳 -エキゾチック・ジャパン-」
3. 【白】DISH//「猫」(初)
4. 【紅】NiziU「Take a picture」
5. 【白】山内惠介「有楽町で逢いましょう」
6. 【紅】櫻坂46「流れ弾」
7. 【紅】Awesome City Club「勿忘」(初)
8. 【白】GENERATIONS「Make Me Better」
9. 【紅】日向坂46「君しか勝たん」
10. 【白】純烈「君がそばにいるから」
11. 【白】SixTONES「マスカラ」
12. 【紅】天童よしみ「あんたの花道〜ブラボー Nippon 型〜」
13. 【白】KAT-TUN「Real Face #2」(初)
14. 【紅】上白石萌音「夜明けをくちずさめたら」(初)
15. 【白】King & Prince「恋降る月夜に君想ふ」
16. 【紅】milet「Fly High」
17. 【白】まふまふ「命に嫌われている。」(初)
18. 【紅】水森かおり「いい日旅立ち」
19. 【白】Snow Man「D.D.」(初)
20. 【企画】松平健「マツケンサンバII」
【後半戦:21時00分〜】
21. 【企画】劇団四季『ライオンキング』より「サークル・オブ・ライフ」
22. 【紅】AI「アルデバラン」
23. 【白】関ジャニ∞「Re:LIVE」
24. 【紅】BiSH「プロミスザスター」(初)
25. 【白】三山ひろし「浮世傘〜第5回 けん玉世界記録への道〜」
26. 【白】平井 大「Stand by me, Stand by you.」(初)
27. 【企画】ケツメイシ「ライフイズビューティフル」
28. 【紅】パプリカ(Foorinへの感謝を込めた企画)
29. 【紅】Awesome City Club × すずめの戸締まり予告連携(特別企画)
30. 【紅】Perfume「ポリリズム」
31. 【紅】millennium parade × Belle (中村佳穂)「U」(初)
32. 【白】宮本浩次「夜明けのうた」
33. 【紅】乃木坂46「きっかけ」
34. 【企画】細川たかし「望郷じょんから」「北酒場」
35. 【紅】坂本冬美「夜桜お七」
36. 【白】藤井 風「きらり」「燃えよ」(初)
37. 【紅】YOASOBI「群青」
38. 【白】鈴木雅之「め組のひと 2021紅白ver.」
39. 【紅】あいみょん「愛を知るまでは」
40. 【白】BUMP OF CHICKEN「なないろ」「天体観測」
41. 【企画】さだまさし「道化師のソネット」(両国国技館から中継)
42. 【紅】東京事変「緑酒」
43. 【紅】薬師丸ひろ子「Woman “Wの悲劇”より」
44. 【紅】石川さゆり「津軽海峡・冬景色」
45. 【白】氷川きよし「歌は我が命」
46. 【白】布袋寅泰「さらば青春の光 <紅白SP>」(初)
47. 【白】福山雅治「道標 〜紅白2021ver.〜」(白組トリ)
48. 【紅】MISIA「明日へ 2021」「Higher Ground 2021」(大トリ)
【初出場歌手の明暗】まふまふの素顔熱唱からSnow Man悲願のリベンジまで
2021年の初出場組は、まさに時代の変わり目を象徴する顔ぶれが揃いました。その筆頭が、ネットカルチャーを牽引してきた歌い手・まふまふです。普段は素顔を隠して活動する彼が、NHKの舞台でトレードマークのマスクを外し、ボカロ発の名曲「命に嫌われている。」を圧倒的な声量で歌い上げた瞬間は、SNS上で凄まじい反響を呼びました。ネット発のクリエイターがテレビの最高峰で偏見を打ち破った、歴史的なワンシーンです。
ジャニーズ勢では、前年の2020年にメンバーの新型コロナ感染によって無念の出場辞退を余儀なくされたSnow Manが、1年越しの悲願を果たしました。デビュー曲「D.D.」で披露したキレのあるアクロバットとエネルギッシュなパフォーマンスは、悔しさを乗り越えたグループの底力を全国に知らしめる結果となりました。デビュー15周年にして初出場を果たしたKAT-TUNとともに、グループの結束を見せつけています。
また、“楽器を持たないパンクバンド”BiSHの初出場も鮮烈でした。直前の12月24日に「2023年をもっての解散」を発表したばかりだった彼女たちは、ファンである「清掃員」への感謝を込め、円陣の掛け声をそのまま生放送のステージに持ち込んで「プロミスザスター」を熱唱。生々しいまでのロック魂を放ちました。
さらに、映画『花束みたいな恋をした』のインスパイアソングで大ブレイクしたAwesome City Club、朝ドラのヒロインとしても圧倒的な存在感を放った上白石萌音、ストリーミング再生を席巻した平井大、そしてソロ歴30余年にして初出場となった世界的ギタリストの布袋寅泰など、各界のトップランナーが初舞台を彩りました。
【伝説のサプライズ演出】藤井風の「実家から会場ワープ」とマツケンサンバ旋風
第72回紅白における最大のハイライトであり、視聴者の度肝を抜いたのが藤井風のサプライズ演出です。事前の発表では岡山県の実家からリモート出演するとみられており、実際に生放送の画面には実家の部屋でピアノを弾きながら「きらり」を歌う姿が映し出されていました。
しかし、曲が終わると同時にカメラに向かって立ち上がり、画面外へ歩き去る藤井風。直後、カメラが東京国際フォーラムのメインステージへと切り替わると、そこには実家と同じ緑のパーカージャケットにモフモフのスリッパを履いた本人が登場したのです。会場全体がどよめくなか、グランドピアノの前に座り新曲「燃えよ」を披露。さらに大トリを務めたMISIAのステージにも飛び入りし、自身が楽曲提供した「Higher Ground 2021」でピアノ演奏とコーラスを担当するという、番組全体を巻き込んだ破格の特別待遇でした。
この前代未聞のギミックは、事前に厳重な情報統制が敷かれており、現場のスタッフや共演者の一部にも直前まで明かされていなかったと報じられています。生放送と事前収録の境界線を鮮やかに壊してみせた演出は、紅白史に残る傑作となりました。
一方、お祭りムードを最高潮に引き上げたのが特別企画枠で登場した松平健の「マツケンサンバII」です。2021年夏、東京五輪の開会式待望論がネット上で沸騰した余波を受け、満を持しての紅白凱旋となりました。金色の煌びやかな衣装をまとい、腰元ダンサーズやスケボーに乗ったパフォーマーたちを従えて乱舞する姿は、コロナ禍で鬱屈としていた日本中を底抜けの明るさで包み込みました。
【司会と新ルール】大泉洋・川口春奈が体現した「司会の枠組み撤廃」と紅組勝利の行方
演出面におけるもう一つの大きな改革が、「紅組司会」「白組司会」「総合司会」という呼称の撤廃でした。ジェンダーフリーやダイバーシティを推進する近年のNHKの方針を反映し、大泉洋、川口春奈、そしてNHKアナウンサーの和久田麻由子の3名全員がフラットに「司会」としてクレジットされました。
大泉洋の軽妙洒脱なトークとアドリブに対して、紅白初司会となった川口春奈が落ち着いた佇まいと的確な進行でバランスを取り、番組はテンポよく進行。過度に男女対抗を煽るのではなく、音楽そのものを楽しむ祝祭のトーンが確立されました。
しかし、番組終盤の勝敗判定においては、旧来の対決構造がはっきりと示されることになります。ゲスト審査員、会場審査員、そしてテレビの前の視聴者審査員による投票の結果、紅組が白組を圧倒して2年連続の勝利を収めました。
紅組勝利の決定打となったのは、中盤から終盤にかけての盤石なセットリストです。millennium parade × Belleの圧倒的な世界観、乃木坂46の感動的なステージ、東京事変の緊迫感あふれる演奏、そして大トリ・MISIAの圧倒的な歌唱力が審査員・視聴者の心を完全に掴みました。
【落選理由と選考の裏側】大物演歌歌手の勇退やAKB48不在に見るNHKの世代交代
毎年の風物詩である出場歌手発表ですが、2021年は選考基準のパラダイムシフトが決定的に可視化された年でもありました。NHKが掲げる選考基準の3本柱「今年の活躍」「世論の支持」「番組の企画・演出」において、とりわけデジタル指標(ストリーミング再生数やSNSでの波及力)の比重が急速に高まったのです。
その象徴となったのが、長年紅白の屋台骨を支えてきた大御所・五木ひろしの不出馬でした。前年までに歴代最長となる連続50回出場を達成していた五木ひろしは、自ら区切りをつける形で勇退を表明。NHK側も演歌枠の縮小に踏み切らざるを得ないタイミングと合致し、昭和・平成の紅白を支えた演歌主導の編成が事実上の終焉を迎えました。
アイドルグループの勢力図も激変しました。AKB48は前年に続き2年連続の落選となり、黄金期を築いたグループが選考の土俵から外れる現実に直面しました。テレビ出演実績だけでなく、Billboard JAPANチャートやストリーミングでの実数値をシビアに評価するNHKの姿勢が如実に表れた結果です。
また、ジャニーズ事務所(当時)所属のグループについても、かつてのようなCD売上至上主義から、デジタルでの話題性や同年のNHK貢献度がシビアに吟味されました。Kis-My-Ft2などの実力派が涙を呑む一方で、SixTONESやSnow Manといった新世代が確固たるポジションを築くなど、新陳代謝の波が押し寄せた選考となりました。
【視聴率34.3%の真相】歴代最低記録の背景とネット配信シフトの転換点
話題性の高かった2021年紅白ですが、年明けに発表されたビデオリサーチの世帯平均視聴率(関東地区)は、第1部が31.5%、第2部が34.3%となり、2部制となった1989年以降で歴代最低の数字を記録しました。この結果を受け、メディア各社は「紅白離れ」「国民的番組の凋落」と大きく報じました。
しかし、この数字を一概に「失敗」と切り捨てることはできません。背景には、日本の視聴環境における決定的な地殻変動がありました。
第一に、若年層を中心とするリアルタイムテレビ離れと、見逃し配信サービス「NHKプラス」の爆発的な普及です。2021年の紅白はNHKプラスでの同時・見逃し配信の視聴数が過去最高を更新しており、リビングのテレビ受像機で家族揃って観るスタイルから、スマートフォンやタブレットで個別視聴するスタイルへの移行が急速に進んでいました。
第二に、ネット発アーティストの起用や「司会枠の撤廃」といった実験的な演出が、旧来の高齢者層視聴者にとって馴染みにくかったという側面も否めません。しかし、若年層のタイムシフト視聴やSNSでのエンゲージメントを含めた総合的な波及力において、2021年の紅白はNHKが目指した「デジタル時代への生存戦略」の大きな足がかりとなったのです。
2021年紅白歌合戦の出演者に関するよくある質問(FAQ)
Q1:藤井風のサプライズ演出は当日まで完全に秘密だったのですか?
A1:はい。事前リハーサルを含め極秘扱いで進められていました。公式発表では「岡山の実家から中継」とされており、国際フォーラムの舞台にスリッパ姿で現れた瞬間は、スタッフや共演者にとっても本物のサプライズとなりました。この演出の成功が、以降の紅白における自由度の高い演出スタイルに道を開きました。
Q2:まふまふが紅白のステージでマスクを外して素顔を出したのはなぜですか?
A2:インターネット発の音楽表現やボカロカルチャーへの偏見を払拭し、一人の表現者として全力でメッセージを届けるための決断でした。本人の事後コメントでも、テレビという巨大メディアで逃げずに歌い切る覚悟の表れであったことが語られています。
Q3:なぜ紅組司会・白組司会という名前が廃止されたのですか?
A3:2021年のテーマ「Colorful〜カラフル〜」に基づき、男女の二元論や対立構造にとらわれず、すべての人が自分らしく輝ける社会を表現するためです。この変更以降、紅白歌合戦における司会の役割は、チームのキャプテンから「番組全体の共同ナビゲーター」へとシフトしていきました。
まとめ:2021年の紅白が切り拓いた音楽番組の新機軸
2021年の第72回NHK紅白歌合戦は、数字上の視聴率という一面だけを見れば過渡期の痛みを伴うものでした。しかし、内容面を振り返れば、地上波テレビとネットカルチャーの完全な融和、多様性を重んじる番組フォーマットの刷新など、現代の音楽フェス型番組への基礎を作ったターニングポイントでした。
まふまふや藤井風が見せた規格外のパフォーマンス、松平健がもたらした祝祭感、そしてSnow Manのリベンジ劇。既存のルールに縛られず、音楽が持つ純粋な熱量を届けようとしたアーティストたちの挑戦は、今振り返っても色褪せない輝きを放っています。 (出典: 紅白 出演者 2021(Yahoo!ニュース))